SMALL TALK

small talk : 世間話、雑談

ポール・マッカートニー 全アルバムレビュー [80年代編]

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こんにちは。前回の続きです。

 

 

 

10. McCartney Ⅱ (1980)

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日本での大麻事件の後、ポールが10年ぶりにソロ名義で発表したのがこのアルバム。

録音自体は前年に行われているため、「Frozen Jap」や「Dark Room」が日本での経験を基にして書かれた曲である、という説は実は正しいものではない。

ところでこの「McCartney Ⅱ」、個人的には以前から僕の愛聴盤となっていて、結構聴く頻度が高い。全ての楽器をポールが担当したというチープな手作り感が好きなのである。

これはソロ1作目の「McCartney」にも通じる点で、手作り感が故にあの大天才ポールを身近に感じられるような、そんな錯覚を引き起こすのである。

「McCartney」の頃と比べて、録音機材は4トラックから16トラックへ進歩しており、そのおかげもあってシンセサイザーの大々的な導入や一人多重コーラスなどより凝った曲作りがなされている。

収録曲の方も、全米1位を獲得した大ヒットシングル「Coming Up」やポールの一人多重コーラスが美しい「Waterfall」「Summer's Day Song」、またテクノポップのはしりとして隠れた名曲とも言われる「Temporary Secretary」など聴くべき良曲が多く揃っている。

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上記に挙げた曲以外にもインスト曲やヘンテコな曲などバリエーション豊かで聴く者を飽きさせない大充実の内容となっている。

今度の来日公演でもこの作品からセットリスト入りする作品が出てくることを願っている。

 

 

 

11. Tug Of War (1982) 

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プロデューサーにあのジョージ・マーティンを迎えて制作されたこの「Tug Of War」は全英・全米チャートで共に1位を獲得し、批評家からも高い評価を獲得した大成功作となった。

世間で言われているようなビートルズへの回帰色はさほど感じないけれど、ポップアルバムとしては普通に優秀でポールらしさが出た良い作品だと思う。

さてこの「Tug Of War」というアルバムタイトル、日本語では「綱引き」という意味である。

そんなタイトルが表すように、このアルバムに収められた曲の多くが「二項対立」のテーマを持っている。ざっと挙げてみると、

・Somebody Who Cares:「見捨てる人」と「見守ってくれる人

・The Pond Is Sinking:「ポンド」と「ドル、円などその他の通貨

Wanderlust:航海に「情熱を持つ人」と「野心を持つ人

・Get It:人生の「成功」と「失敗

といったところだろうか。

特に「Ebony And Ivory」、これはスティーヴィー・ワンダーとのデュエットで話題となった大ヒット曲だが、歌詞の方はというと

キーボードやピアノの黒鍵と白鍵のように、黒人(スティーヴィー)と白人(ポール)が調和する

という二項対立、そして如何にも80年代のスティーヴィーが歌いそうな内容となっている。

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それにしても、「Ebony And Ivory」での人種問題にしろ、先ほどの「The Pond Is Sinking」での経済問題にしろ、この「Tug Of War」では世界情勢を踏まえたかのような歌詞を持った曲が多い。

これは恐らくジョン・レノンの死が大いに関係しているのではないのではないかと僕は思う。

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ジョンがいた頃は、世界平和や反戦といったテーマを掲げた曲は彼に任せて、ポールは気ままにポップなラブソングを歌っていればよかった。(まあ、それしか歌ってなかったというわけではないけど)

ビートルズ後期でも、解散して2人がソロになった後もそれは変わらなかった。

だが、1980年にジョンが殺されてから、ポールはジョンの分も自分が頑張らなくてはいけない、彼の役割を自分が担っていかなくてはならないと思ったのだろうか。これ以降のポール作品では国際情勢に言及した曲が明らかに多くなっていく。現時点での最新作「Egypt Station」でもその傾向は変わっていない。

政治的な曲を作るのは悪くないことだと思うが、70年代のようなのびのびとした感覚がこれ以降のポールから消えてしまったように思えるのは残念だ。

 

 

 

12. Pipes Of Peace (1983) 

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もともと2枚組で発売する予定だった「Tug Of War」に入りきらなかった曲を集めてひとつの作品にしたのがこの「Pipes Of Peace」である。

前作ではスティーヴィー・ワンダーという黒人音楽の巨匠をゲストに迎えたが、今作では当時黒人音楽界の期待の星であったマイケル・ジャクソンの参加が話題となった。そんな彼が参加した曲のうちのひとつがあの「Say Say Say」である。

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当時の「スリラー」ブームも手伝って、全米1位の大ヒットシングルとなった。ポールの商業的な最盛期はこの頃だったのかもしれない。

あ、優しいメロディと少年達の声によるコーラスが印象的なタイトル曲も名曲なので忘れずに。

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今作でもジョージ・マーティンとのコラボレーションは健在で、これは次作の「Give My Regards To Broad Street」まで続く。

ビートルズ色をより打ち出していくことが狙いだったのかもしれないが、その頃に比べてしまうとやはり一歩劣るというか、「何か」が足りない感じを受けてしまう。

その「何か」というのが作曲面でのジョンの手助けだったり、ジョージのギタープレイ、そして何よりもリンゴの叩くドラムといった要素なんだろうな。

ジョージ・マーティンの起用によって、却ってビートルズの偉大さをより痛感させられる結果となっているのはなんとも皮肉である。

 

 

 

13. Give My Regards To Broad Street (1984)

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ポールが主演・脚本を担当した同名映画のサウンドトラックとして発売されたのが今作。

プリンスもそうだけど、80年代ってミュージシャンが映画に出演したりするのがめちゃくちゃ流行っていて、ポールもその流れに乗じた感じか。MTVはやはり偉大ですね。ちなみに映画の出来はアレらしいけど…。いつかきちんとこの目で見てみたいですね。

それでサントラの方はというと… ビートルズやウイングス、そしてソロでのナンバーが大半で、それプラス「No More Lonely Nights」などの新録曲が少しというアルバム構成。

こういう再録モノっていうのは大体失敗に終わってしまうことが多いのだが、これが意外なほどイイのだ。(ビートルズナンバーそのものを解禁してしまったのは前2作の失敗を認めるようなもんじゃないのかという野暮なツッコミは言わない約束で)

80年代というかつての大御所達が軒並み苦戦を強いられたロックンロール暗黒時代に制作されたという時代背景を考えると、これは大成功作と言っても過言ではないと思う。

選曲の方も、如何にもロックといった雰囲気の曲を避けてポップスやバラードを中心に選曲したのは正解だったのではなかろうか。ポールの書くメロディは時代に関係ない普遍のモノなんだなと改めて痛感させられる。

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中でも白眉なのは「Eleanor Rigby」の再録版。本編の後に「Eleanor's Dream」というオーケストラ作品が続く組曲形式の作品となっているが、のちのポールのクラシック音楽挑戦を予感させる、それに向けての習作のような作品と考えて聴くと面白い。本当に多彩な人ですね。(映画制作以外は)

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14. Press To Play (1986)

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セピア色のクラシカルな雰囲気のジャケットが印象的な作品。

プロデューサーはポリスやスティングとの共同作業で有名なヒュー・パジャム。彼のプロデュース作品に特徴的な、ゲーテッド・リバーブ処理されたドラムサウンドが全編にわたって鳴り響いていて如何にも80年代といったような感触。

だが、そんなサウンドとは裏腹にアルバム全体の印象はというとかなり地味である。恐らくポールのキャリアの中でも1、2を争う地味さ加減なのではないか?

曲の方もこれといった出来のものは見当たらないし、ポップな方向と実験的な方向のどちらにも振り切れてない感じで中途半端なのである。個人的にも後々この作品のことを振り返ることはあまりなさそう…。

あえて1曲挙げるのするならば、「Only Love Remains」だろうか。アルバムジャケットの印象そのままの、セピア色のクラシカルな雰囲気の甘いラブソングである。如何にもポールが書きそうな曲だし、このくらいの曲を書くくらいなら朝飯前なんだろうな。

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15. Flowers In The Dirt (1989)

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エルヴィス・コステロとの共作で話題となった作品。

これまでソロ活動において組んできたコラボレーターとは違って、コステロは制作中ポールと対等な立場に立ち、時には辛辣な意見も投げかけたそうだ。まるでビートルズ時代のジョン・レノンのように。

これにポールは発奮したのか、出来上がったアルバムは結果として前作とは比べ物にならないほどの完成度を誇る佳作となったのである。

だが、そのようなアルバムの出来にも関わらず結構不遇な扱いを受けているのも今作の特徴である。

2017年にアーカイブシリーズとして再発されるまでポールはこの作品を聴き返すことはほとんどなかったと言っているし、その証拠にベスト盤にこの作品からの楽曲が入ることは少ない。というか一度も入ったことがないのである。

どうしてだろう?「My Brave Face」なんかコステロ色が色濃く出た良質なパワーポップですごくイイと思うのだが… 「Distractions」や「Put It There」も存在感は薄いものの良曲であると思う。

自分が自分がという感じで、前に出たがりのポールがコステロ色の濃く出た今作をあまり気に入っていないという説もあるが、あながち間違っていないのかもしれない。

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というわけで、今回の記事では80年代のポール作品を一気に駆け抜けました。

80年代という時代は、MTVの力によるポップス勢の躍進などにより、多くのロックスターが自分を見失い低迷してしまう時期でした。

例えば僕の大好きなデヴィッド・ボウイ。彼のような鬼才でさえも進むべき道を見失い袋小路にはまってしまったんですね。(彼に関してはこれ以外にも様々な要因があっての低迷なのですが、それはまた別の機会にお話しします)

そんなロックスターにとっての鬼門のような時代にあっても、ポールは持ち前のポップセンスを駆使して上手くアジャストし、以前のようにヒット曲を連発することは難しくなったものの大きなダメージを負うことなくこの10年間を駆け抜けることができました。これは本当に凄いことだと思います。ポールのセンスは普遍のものなんだと実感します…!

 

次回からは円熟味を増した作品を発表した90年代に突入……  といきたいところなのですが、もう一つ優先してやらなくてはいけない企画があるのでそっちを先にやってから、またこのポールの企画を進めていこうと思います。それではまた。

 

 

 

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