ポール・マッカートニー 全アルバムレビュー [70年代編・その③]
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前回の続きです。今回はウイングスの最後の3作を一気にまとめてレビューしていきます。
[目次]
7. At The Speed Of Sound (1976)
1975年の9月から翌76年の10月までの1年間に渡ったワールドツアーの合間に録音された、ウイングス5枚目のアルバム。
このアルバムの最大の特徴は、収録曲の約半分でポール以外のメンバーがヴォーカルを務めている点。前作でもポール以外のメンバーが歌う曲はあったのだが、今作ではその傾向がさらに加速している。
考えてみれば、ビートルズでも比率にこそ偏りはあるもののメンバーの4人それぞれがヴォーカルを担当する曲が存在していたわけで、それが各々の個性を際立たせビートルズのバンドとしての強固さを裏付けるひとつの証拠となっていた。
こういった経験を踏まえて、ポールがウイングスのこれからの活動を見据えた上で、各メンバーの個性を打ち出していく必要があると考えてのこのアルバム構成だったのだろう。
だが、この試みは正直成功したとは言い難い。仕方のないことである。ビートルズは4人全員が個性と才能に溢れた奇跡のような音楽集団だったのでさっき言ったような試みも当たり前のように成功させてしまうが、そんなバンドは稀である。才人ばかりが集まったバンドなんてこの世にはそうはいないわけである。ウイングスもその例に漏れなかった。それだけのことである。
確かにポールは超ド級の才人である。その証拠として、彼が書いた「Let 'em In」「Silly Love Song」「Warm And Beautiful」の3曲の完成度は凄まじく高い。
だが、それ以外の曲、つまり他のメンバーのヴォーカル曲は退屈な上に個性など皆無で全く印象に残らず、結果としてアルバム全体の印象としては前述のポール作の3曲くらいしか頭に残らないのである。もしかするとウイングスの熱狂的なファンにもなるとまた違う感想を持つのかもしれないが…。僕のようなフツーの音楽ファンとしてはやはり、あまり印象に残らないアルバムという評価になってしまう。
だが僕の低い評価とは裏腹に、このアルバムはウイングス最大のヒット作となる。アルバムの発売がちょうど全米ツアーと重なっていたことが効いたのだろう。実際全米ツアーも大成功に終わり、すべての日程が終わった時にはポールは感動のあまり泣き崩れたしまったほどだったらしい。
この頃のウイングスに関する有名な逸話として、「ウイングスのステージを観にきたファンが『ビートルズって何?』と言った」というのがある。彼らの勢いを端的に表しているエピソードだろう。
ついにウイングスは、「元ビートルズのポール・マッカートニーの新しいソロ・プロジェクト」から「ポール・マッカートニーというベーシストがヴォーカルを務める最近人気のバンド」という評価を得ることができたのである。
8. London Town (1978)
全米ツアー後に発売されたライブ盤「Wings Over America」とベスト盤の間に挟まれたせいか、なんとも地味な印象を受けてしまうアルバムがこの「London Town」である。アルバムジャケットからして地味だし…。
前年に出した大ヒットシングル「Mull Of Kintyre」におけるトラッド・フォーク路線はこのアルバムでも引き継がれている。
それに加えて、「With A Little Luck」をはじめとしてシンセサイザーがフィーチャーされている曲や、「Girlfriend」「Morse Moose And the Grey Goose」などのディスコ/R&Bの影響を受けた曲も散見される。まあ、当時流行っていた音楽スタイルに乗っかってみたんだろうな。
悪いアルバムでは全く無くて、むしろ何回か聴くと良さが分かってくる所謂スルメ的な作品だと思う。優先度としては低いけれどね。
9. Back To The Egg (1979)
ウイングスの7枚目にして最後のアルバム、それがこの「Back To The Egg」である。
このアルバムタイトルを訳してみると「タマゴの頃に帰る」、すなわち原点回帰を意味しているのだと思うが、なるほどアルバム中にはかつてのポールが書いていたようなポップでノリのいいロックンロール曲が数多く含まれている。
また、「ロケストラ」プロジェクトでのセッションから誕生した一発録りの「Rockestra Theme」や「So Glad To See You Here」といった曲や、コンセプトアルバム的な構成もあって、ウイングスのディスコグラフィの中でも「Venus And Mars」と並んでビートルズ風味の強い作品と言うことが出来るだろう。
他にも「Arrow Through Me」といった落ち着いた雰囲気の大人向けポップスや、一瞬P-Funk曲と勘違いしてしまいそうな小品「Reception」など、バラエティ豊かな曲が揃っており、影は薄いが聴きどころの多い魅力的な作品だと思う。
同年発表されたシングルでも、アルバムには収録されていないものの「Goodnight Tonight」や「Wonderful Christmastime」など完成度の高い作品が多数リリースされており、この時期のポールの創作における充実度が伺える。
しかし、原点回帰を謳った作品が結果としてウイングスとしてのラストアルバムとなってしまったことはなんと言う皮肉だろうか…。
「Back To The Egg」発表後、ポールは来日公演のために訪れた日本で大麻所持法違反のため逮捕され、そのことがキッカケでウイングスは解散してしまったのは皆さんの知るとおり。
なのでウイングスのアルバムをレビューするのは今回で最後なんですね。次回からはまたポールのソロ名義の作品について書いていきます。
ウイングスというグループ、これまでは彼らがどんな音楽をやっているのかあまり分からなかったし馴染みは薄かったのですが、作品を聴いていて思ったのはすごく真っ当でオーソドックスなポップ・ロックを演奏する集団だったんだなあということ。ぶっちゃけポールのソロとは実験色が少しだけ薄まっただけであまり変わらないかもしれないです。(笑) でも裏を返せば安心して聴けるという意味でもあります。
もちろんアルバムごとにそのカラーは違っていて、ビートルズっぽいのもあれば泥臭くロックしてるものや民族音楽っぽいことをしている作品もあったり…。聴いていて結構楽しかったです。その中であえて順番をつけるなら、上から
Venus And Mars
Band On The Run
Wild Life, Back To The Egg (同率)
At The Speed Of Sound
Red Rose Speedway
London Town
という感じになるのかなあ。何度も言うけど、「Venus And Mars」はホントに傑作なので、特にビートルズファンの人は絶対に聴いてください。
というわけで、また次回に続きます〜。