SMALL TALK

small talk : 世間話、雑談

「Surviving R. Kelly」を見た感想

この前、「Surviving R. Kelly」というドキュメンタリーを見ました。

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これは去年の年始あたりにアメリカで放映され、大反響を呼んだドキュメンタリー。
当時、筆者が個人的に信頼している評論家がこぞってこれを取り上げていたので、R. Kellyというミュージシャンのことは名前しか知らなかったけれどすごく興味が湧いた。
そして、この度プライムビデオにて字幕版が配信されるということなので、実際に見てみた。
 
1エピソード45分程度で全6話という構成で、大まかな内容は
1話&2話:幼少期〜成功までの道のりと、小児性愛者としての裏の顔について(90年代まで)
3話&4話:00年代に入りエスカレートする性犯罪行為、そして裁判
5話&6話:10年代のセックスカルト疑惑と抗議運動
と言った風になっている。
 
これは是非実際に見て考えてもらいたいため、内容の核心部分に迫るのは避けるが、正直にいうと最後まで見るのはかなりキツかった。
とっくに成人を済ませた大の大人である僕でも、目を背けたくなるような衝撃的な内容が何度も出てきた。被害者の苦しみは想像するに余りあるし、顔を出して出演した被害者女性たちの勇気には本当に感服してしまう。
ドキュメンタリーの視聴と併せて、彼の曲もいくつか聴いてみた。

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素晴らしい曲ばかりで、少々困惑してしまった。実は僕の大好きなMichael Jacksonの「You Are Not Alone」も彼の作品だ。

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今回の騒動のおかげで、すでに無罪が確定しているマイケルまでもが「ペドの仲間」なように見られそうですごく悲しかった。

そして、こんな美しいバラードを作る人がここまで惨たらしいことをできるなんて信じられなかった。神様の悪戯なのだろうか?

 
問題をさらに複雑にしているのは、ケリー自身も性的虐待の被害者であるということだ。
真偽のほどは不明だが、幼少期に他の家族から性的ないじめを受けていたそうだ。発達途上の段階での性的虐待は、その被害者に深刻な心的外傷をもたらすという。ドキュメンタリーを見ていた限りでは、ケリーの女性に対する異常な支配欲がすごく印象的だったのだが、そうした行動も彼が受けた虐待にルーツがあるのだとしたら、本当に悲劇的な話だと思う…
 
でも、そういう事情はあれども、やっぱり彼のしたことは決して許されないことであると思う。
よく「アーティスト本人と制作物は分けて評価するべき」という考え方について議論になることがある。簡単にいうと、芸術家が犯罪を犯したとしても、そのことがその人自身の作品の価値を貶めたり、ましてやその作品の存在をこの世から決してしまうべきだ!ということにはならないという考え方だ。去年の電気グルーヴの件が代表的だろう。
だが、今回のケリーの場合は…。このドキュメンタリーを見てしまうと、流石にそんなことも言えないよなあと思ってしまうほど、彼の犯した罪は重すぎると感じてしまう。
 
 
しかしこの事件、彼のファンには辛いだろう。実際、YouTubeに上がってる彼の動画のコメント欄を見ても同様のことを言っている人は多いし、番組内でも裁判の時には多くのファンが彼の味方をしたとも言われていた。それは仕方のないことだと思うし、ファンを責めることはできない。
本人は裁きを受け、被害者は逃れられないトラウマに苦しみ、ファンは大切な思い出を汚されてしまうという、誰も得をしない悲しい事件だなと改めて感じた。
こういう人間を早い段階から見つけ出すというか、しっかり告発できる体制を整えること。そうした意味でも、昨今の急速な人権意識の高まりというのは重要だなと思ったし、僕自身も常にそうした意識をアップデートさせていかなくてはならないなと痛感したところで、この話はおしまい。