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The Cure : 全アルバムレビュー(1983〜1989)

こんにちは。
 
フジロックでのThe Cureのライブが目前に迫ってきましたね!
このタイミングで前の記事の第二弾、行こうと思います。ではどうぞ!
 
 
 
 
 
 

5. Japanese Whispers (1983)

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この作品は本来ならEPとしてカウントすべきではあるが、キュアーのバンド史上重要な転換点となる作品なので、特別にここで紹介する事にする。
 
「Pornography」の頃の地獄のような状況を経て、崩壊してしまったThe Cureロバート・スミスもキュアーに対する熱意を失い、Siouxsie & The Bansheesのギタリストとしての活動などのサイドワークに勤しむこととなった。
しばらくの気分転換の後に、キュアーの再始動を決意したロバートだったが、何を思ったのか、以前の陰鬱なスタイルとは似ても似つかない、健康的で快活なポップソングを作り始める
その結果リリースされたのが、この「Let’s Go To Bed」をはじめとする、「ファンタジー三部作」とも呼ばれる一連のシングルである。

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当時流行りのディスコ調の曲。キーボードに転向した唯一残ったバンドメンバー、Lolの好演が光るMVは、数少ない彼の見せ場の1つだろう。
おそらく、当時のファンはとんでもないレベルで度肝を抜かれただろう。後追いファンの自分でさえ、この変貌ぶりにとても驚いたのだから…。
 
「The Walk」も同じ路線のディスコ・ポップ。路線変更しても、耽美な雰囲気をしっかり残している点に好感が持てる。

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「The Lovecats」はキュアー初のジャズ調ナンバーに仕上がっている。
ロバート曰く、ディズニーの「おしゃれキャット」をイメージしたそうだ。でもMVはちょいキモカワ路線か?

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そして、これらのシングル曲を軸にして制作されたEPが「Japanese Whispers」である。なぜ日本がタイトルなのかは不明だが、不思議としっくりくる題名でもある。
他の収録曲に関しては、当時の流行りの音を取り入れた、何の事は無い平凡な曲が並んでいる。無理して聴く必要もないだろう。
しかし、ここで行なった大幅な路線変更がのちの大成功に繋がると考えると、今作も重要作と言うことが出来るのではないだろうか。
 
 
 
 
 
 

6. The Top (1984)

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「ファンタジー三部作」のヒットを受けて、所属レコード会社のポリドールはロバートにキュアーの本格的な再始動を命じる。
当時、サイドプロジェクトで忙しかったロバートは渋々これを受け入れるが、制作開始時点ではそれらしいアイデアは1つも持ち合わせていなかったという。自身のあるアイデアは全てサイドプロジェクトで使い果たしてしまっていたのだろう。
そんな背景で制作されたこの「The Top」は、確かに散漫で聴きどころの掴みづらい作品となってしまっている。
 
全ての曲において、ドラム以外の楽器をロバートが1人で演奏しているというのも良くないのかもしれない。
かつてのようなバンドアンサンブルが存在しないせいで、曲のメリハリのなさはっきりと感じることが出来る。サイモン・ギャラップはバンドの屋台骨を支える偉大なベーシストだったことを実感…。
ただ、「The Caterpillar」のような優秀なシングル曲が存在するのも事実。
こういう曲調の楽曲は、バンドではなくソロだからこそ実現出来る作品であろう。
バンドサウンドにとらわれず、もっと自由にのびのびとした曲を作ればよかったのに…と言わざるをえない、惜しい作品。
 
 
 
 
 
 

7. The Head On The Door (1985)

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この作品からサイモン・ギャラップが復帰、また新ドラマーとしてボリス・ウィリアムス、新ギタリストのポール・トンプソンも加入し、前作で顕著であったバンドアンサンブルの弱さに対する不安は完全に払拭された。
また、今作の制作に入る直前にロバートが購入した12弦ギターも音色が全体的にフィーチャーされていて、ネオアコ・ポップ的な要素も色濃く出ている。
かと思えば、キュートでストレンジな「Close To Me」だとか、変拍子が特徴的な「Six Different Ways」のようなバンドの新たな一面を見せる曲も多く収録されている。これもひとえにバンドアンサンブルの強化の賜物だろう。

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とにかくこの「The Head On The Door」、ポップながらも飽きのこない粒揃いの曲が多く収録された必聴盤である。バンドの世界進出への足がかりとなった力作と言うことが出来るのではないか。
 
 
 
 
 
 

8. Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me (1987)

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世界中、特にアメリカ市場で特大ヒットをぶちかましたこのアルバムは、2枚組74分という盛りだくさんのボリュームの中に、バラエティあふれる良曲の数々を詰め込んだ作品となった。
ドラムの音とキーボードの重なり合いが気持ちいい「Just Like Heaven」やホーンセクションを導入した「Why Can’t I Be You?」のように躍動感あふれるゴキゲンなポップソングがあるかと思えば、「Catch」や「The Perfect Girl」といった可愛らしい小品も収録されている。
また、「Torture」みたいにかつてのスタイルを彷彿とさせる曲がある一方、「Hot Hot Hot!!!」のようなファンキーな新機軸にも挑戦していたりと、この一枚でバンド史を俯瞰出来るかのような仕上がりとなっている。
もしキュアー初心者の人がいたら、この「Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me」から入門してみるのがいいのではないか。
 
 
 
 
 
 

9. Disintegration (1989)

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前作の成功を経て、全世界から同系統の新作がリリースされることを期待されていたキュアーだが、もちろんロバート・スミスはそれにやすやすと応えるようなことはしない。
代わりに前作と全く系統の異なる、「Pornography」に次ぐ暗黒三部作の2作目、「Disintegration」を完成させたのである。
 
 新加入した熟練のキーボーディスト、ロジャー・オドネルによる重厚なシンセサイザーオーケストレーションがこの作品に荘厳さや重み、神聖さなどといった様々なキャラクターを加えることに成功している。この作品におけるMVPを1人選ぶなら、間違いなく彼が獲るだろう。
そんな彼のキーボードが炸裂しているのが「Lovesong」である。
シンプルな構成ながらも重厚な雰囲気が全編に流れる稀有な一曲。間奏部分でのキーボードとギターの絡みが何とも美しく、悶絶してしまう。

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今作のテーマを簡単に表すならば「死に対するぼんやりとした憧れ」といったところだろうか。

「Lulaby」のMVでは、ロバートが蜘蛛男に捕らえられ喰われてしまう光景が描かれている。

これも死への恐怖というよりかは、むしろ美しいものとして描いているように感じてしまう。

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また「Pictures Of You」では、大切な人の写真を見て想いを募らせていく様子について歌われている。

この歌詞、解釈のしようによっては「もう既にこの世からいなくなってしまった人の写真を眺めて思い出に浸る」という内容に感じる人がいるらしく、下の動画のコメント欄では故人を偲ぶような内容の長文コメントが数多く投稿されている。

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彼らの音楽がどういう層の人達に聞かれてきたのか、そして如何に彼らの心を震わせてきたのかがよく分かるコメントばかりで本当に美しかった。

まさかYouTubeのコメント欄でここまで感動するとは人生分からないものである。

 

他にも重厚な「Last Dance」や「Prayers For Rain」、厳かな雰囲気でひたすら進行していく9分間の大作「The Same Deep Water As You」とそこから間髪入れずに演奏されるワンコードのキュアー流ヘヴィ・ロック「Disintegration」など、シングル曲だけではなくアルバム曲も凄まじいほどの完成度を誇っている。

 

彼らはこれまでも数多くの良作を世に送り出してきたが、ここまで心震わされる作品は他になかった。

彼らのキャリア中1番の完成度なのは疑いようがないどころか、ロック史上でもかなりの上位に食い込んでくる作品であろう。必聴作。

来たる今年のフジロックでも、ここから多くの曲が取り上げられることだろうから、時間がない!という人はこの作品だけでも聴いておいて欲しいところ…。