SMALL TALK

small talk : 世間話、雑談

A Brief Inquiry Into Online Relationships / The 1975

こんにちは。

今回は、現在巷で話題のThe 1975の最新作について書いていこうと思います。

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1. The 1975

彼らの作品の冒頭を飾るのは決まってこの曲であり、今作でもそのルールは破られていない。

毎回アレンジが変わっていて、前作「君が寝てる姿が好きなんだ。なぜなら君はとても美しいのにそれに全く気がついていないから。」ではゴスペル調のアレンジが施されていたが、今回はデジタル・クワイアを大々的に導入した作風となっている。

2016年にボン・イヴェールとフランシス・フェアウェル・スターライトが蒔いた種は、その後の音楽シーンにおいて着実に実っているようだ。

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2. Give Yourself Try

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Joy Divisionの「Disorder」のリフを大々的にフィーチャーした、このノリの良いポスト・パンクでアルバムは幕を開ける。ちなみにこのリフ、カッコいいくせにギターで超簡単に弾けるんですよね。嬉しい。

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最初の先行シングルとして公開された当初は、「今回のアルバムはパンクっぽくなるのかな〜」なんて思ったりしていたが、この自分の予想は大幅に覆されることとなるとは全く知る由もなかった…。

 

3. TOOTIMETOOTIMETOOTIME

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前作の「UGH!」を彷彿とさせる、彼ららしいオシャレなポップソング。

一貫してシリアスなムードが漂う今作中でも、安心して聴ける曲のひとつだと思う。つい最近まで流行っていたトロピカルハウスっぽい曲調なのも地味にポイント高いですね。

 

4. How To Draw / Petrichor

前半と後半パートで分かれている曲。

前半の「How To Draw」はまたもデジタル・クワイア全開の曲。マッティーの声質的にちょっとFrancis and the Lightsみたい。

そして僕は後半の「Petrichor」が好きなんです。Radioheadの「Idioteque」を思い出すような、ポストロック風味のダンスビートがたまらない!ライブとかで聴きたいなあ。

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5. Love It If We Made It

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先に言ってしまうと、この曲は今年のベストソングのひとつだと思う。本当に素晴らしい!

なんで僕がここまで言い切ってしまうのかというと、この曲から彼らの音楽に対する熱意がこれでもかという程伝わってくるから。

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上の画像はさっき貼ったこの曲のMVの最後に一瞬だけ出てくる画面のキャプチャだが、これを見ても分かる通り彼らはこの「Love It If We Made It」の歌詞やMVの中で世界中のさまざまな問題について言及している。

例を挙げると、エリック・ガーナーの窒息死事件難民問題・ネット上にはびこるトロールたち・フェイクニュース・Lil Peepの急逝など…。枚挙に遑がない。

特にアメリカのトップに立つあのマヌケ野郎についてはヴァース丸ごと使って言及しまくっている。

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 こうやってミュージシャンが曲にのせて自分たちの思いの丈を表現するアツい行動というのが僕は大好きなのだ。冷静に大人びたふりをしてピッチフォーク受けのいい曲を書いているような奴らたちとは違うのである。

 

7. Sincerity is Scary

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アコースティックバラードの「Be My Mistake」を挟んで繰り出されるこの曲は、前作で取り組んだゴスペル要素とヒップホップの影響色濃いビートが合体した作品となっている。

なんちゅう複雑なビートなんだ… これはライブで再現するの難しそうだなと思ってたけど、この動画見るとそうでもなさそう?てか楽しそうでいいな。

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ちなみにマッティーが上の動画の最後に追悼している人物であるRoy Hargroveはこの曲でトランペットを吹いているのだが、なんとD’Angeloの「Voodoo」「Black Messiah」にも参加している有名なジャズミュージシャンなのだそうだ。彼は11月の初めに腎疾患が原因の心肺停止で亡くなっている。

 

8. I Like America & America Likes Me

一見するとオートチューンがバリバリにかかった今風のポップソングだけど、メロディーはすごくドラマティック。元々エモバンドだったもんね、彼ら。すごく好きな曲。

 

9. The Man Who Married A Robot / Love Theme

どうやら今作、巷ではレディへの「OK Computer」とよく比較されているらしい。似ているという人もいれば似ていないという人もおり、賛否両論分かれている。

僕はこのことに関してはどうこういうつもりはないけれど、この曲に関しては明らかに「OK Computer」の影響下にあると言ってもいいだろう。そう、「Fitter Happier」のこと。

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20年前にはMacの音声機能によって読み上げられていたが、2018年の今ではその役割はSiriにとって代わられている。(同じApple製品なのがミソやね)

読み上げられる内容も「Fitter Happier」では哀れな中産階級労働者の「望みリスト」についてであったが、「The Man Who Married A Robot」ではネットとの充実した生活を送る幸せそうな男の姿についてと対照的である。もちろん、バンドはこの曲を通じて「インターネットに依存するのはいいぞ。」と伝えたいわけではなく、ネット社会への警鐘を鳴らそうとしていることは明らかだが。

このように考察しがいのある歌詞を持つこの曲は、「A Brief Inquiry Into Online Relationships」というタイトルを持つ今作のテーマを端的に説明する重要な一曲であると思う。

ちなみに、この曲の歌詞の最後は

You can go on his facebook.

という一節で締めくくられている。 

ここでの "his" とは@SnowflakeSmasher86という名前(ハンドルネーム)の主人公のことを指しているが、実は彼のページは実際にFacebook上に存在しているのである!

このことを知った時には流石に僕も驚いた。おそらくバンドが仕掛けたアカウントだと思われるが、リンクを貼っておくので皆さんもぜひ訪れてみてほしい。メッセージのやりとりもできるそうですよ。

https://www.facebook.com/snowflakesmasher86/

 

 11. It's Not Living (If It's Not With You)

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80's風の爽快なポップス。いいメロディーと綺麗な音のギターで人畜無害な曲。

と思いきや、歌詞の方はマッティーのドラッグ依存を暗示している内容。MVも80年代風味の演奏シーンとドラッグ使用によるものと思われる彼の幻覚が同居するカオスな内容。個人的にはラストが「インセプション」っぽくて好きだな。

 

続く12曲めはUKアコースティックバラード風、13曲めはジャズ風、14曲めは80年代AOR風なのだが、この他にもトロピカルハウス、ゴスペル、IDM、ヒップホップだったりと、アルバムを通じて収録曲の音楽性はバラバラで統一性は全くと言って無いのが今作の大きな特徴の1つと言えるだろう。

 

だが、クロージングナンバーのI Always Wanna Die (Sometimes)、これは「The Bends」の頃のレディへみたいな感動的なロックバラードなのだが、いい感じに大団円のような役割を果たしていて、楽曲ごとのコンセプトがてんでバラバラなこのアルバムに謎の統一感と、名盤っぽい雰囲気をもたらしてくれるのである。今作の中でも1番重要な曲であろう。

 

収録曲のキャラクターがバラバラなのに謎の統一感がある名盤。

そういう点では、僕はこの「A Brief Inquiry Into Online Relationships」はビートルズのホワイト・アルバムに似ているかもなと思った。

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全編を覆う異様な才気に関しても、共通したものがあると思う。

 

まあとにかく、このアルバムで彼らThe 1975がネクストレベルに到達したことは誰の目にも明らかだろう。以前の作品に比べても今作に対する絶賛度合いが圧倒的に違うのが何よりの証拠。来年にリリースされる予定の次回作「Notes On A Conditional Form」にも期待大である。

 

頑張れThe 1975!!!