Sweetener / Ariana Grande
こにゃにゃちわ。
今回はAriana Grandeの8月17日に出たばかりの新作「Sweetener」について。
アリアナといえば現在のポップス界を代表するスーパースターとして有名だけれども、近年の彼女を語る上で欠かせないトピックスがもうひとつ。それは、去年の5月22日にマンチェスター・アリーナで発生した自爆テロ事件。
broken.
— Ariana Grande (@ArianaGrande) May 23, 2017
from the bottom of my heart, i am so so sorry. i don't have words.
すでに2016年の年末の時点で次作に向けての曲がいくつも書き終わっていることを明らかにしていた彼女だったが、この痛々しい事件によってPTSD(心的外傷後ストレス障害)を追った彼女は一切の音楽活動を中断せざるを得なくなってしまった。
この辛すぎる経験を癒してくれるもの、彼女にとってのそれは音楽活動を続けることだった。自分が心から好きだと思えることをしていく過程で傷ついた心を癒していければと考えたのだろうか。
そんな背景で製作されたアリアナの新作「Sweetener」、きっと「辛い状況から抜け出して前を向いていこう!」みたいなメッセージソングが大半を占めているんだろうな…と思っていたら意外や意外、そんなことなかったのである。一目でそうだと分かるような曲は「no tears left to cry」や「get well soon」くらいだった。
では他の曲では一体どういったことについて歌っているの?というと、恋人とのおのろけソング。これが結構な数収録されている。(笑) そういえば、彼女は最近Pete Davidsonというアメリカのコメディアンと婚約したばかりなんだった…。その証拠に、なんとアルバム中には「pete davidson」という最早そのまんまやんけ!とツッコミたくなるような曲も収録されているのである。
そんなおのろけソングの中からひとつ紹介したいのが、現在ヒットチャートを席巻中のシングル「God is a woman」。あからさまでは無いものの、これは明らかにセックスについて歌った曲である。
MVもそれらしい表現がちょくちょく出てきて、”想像力の豊かな人”であれば親と見るとちょっと気まずくなりそうである。
個人的にはマドンナの語りが出てくる場面が超お気に入り。あの人こそ「God is a woman」みたいなタイトルの曲を歌いそうだもんね。
マドンナの語りは見つけられなかったので、代わりに「パルプ・フィクション」でのサミュエル・L・ジャクソンバージョンを。
この曲はタイトルが議論を呼びそうな、というかその筋のめんどくさい人たちに絡まれそうな曲である。
You, you love it how I move you
You love it how I touch you, my one
When all is said and done
You'll believe god is a woman
これはサビの歌詞の一節なんだけれど、議論するとか怒るとかそれ以前に発想としてすごく興味深くないですか?僕なんか、面白いこと考えつくなあ、それなら確かに神様は女の人かもなあ、と素直に受け取ってしまうのだけれど、違うかなあ。
神様の性別なんて決まっていないし、そもそも神様なんているかどうかも分からないし、そんな不確定なことに対して口論しあったり腹を立てたりすることってなんかとっても滑稽だと思うんです。
i was expecting it and of course understand it ... but it’s art. it’s okay if not everybody understands everything i do. i’m grateful for the opportunity to be myself and inspire others to do that as well. I would rather do that than play it safe. 🐱🖖🏼 https://t.co/uSMLrSTV5C
— Ariana Grande (@ArianaGrande) July 12, 2018
アリアナの言うとおり。
閑話休題。Nikki Minajとのコラボ曲「the light is coming」についてだが、冒頭にサンプリングされている男性の怒鳴り声に注目してみる。
soo, the sample in @ArianaGrande’s #TheLightIsComing (“you wouldn’t let anybody speak!”) appears to be from a CNN archive clip of a man shouting at Sen. Arlen Specter at a Pennsylvania town hall meeting in 2009 pic.twitter.com/z8Cz9sVLbm
— Madeline Roth (@madfitzroth) June 20, 2018
これは2009年に開かれたオバマケアに関しての政治集会で、民主党上院議員のアレン・スペクターと民衆との間で起こった言い争いの様子からサンプリングされた音声である。
豆知識として、この曲はファレル・ウィリアムスによってプロデュースされているのだが、実は同じファレルがプロデュースしたN.E.R.D.の「Lemon」でも、この言い争いの中でスペクター議員が言い放った「Wait a minute」という音声がサンプリングされている。
ファレルがどういう意図でこの音声を採用したのかは不明だが、「the light is coming」にアリアナ個人に起こった出来事についてだけではなく、政治的な文脈も付与することに成功していると思う。
先ほど紹介した2曲も紹介しておこうと思う。
「no tears left to cry」はテロ云々以前に、ポップソングとしての完成度が異常に高く、アリアナ自身のキャリアの中でもトップクラスの名曲であると思う。個人的には年間ベストソングの筆頭候補。
アルバムの最後を飾る「get well soon」について。この曲の再生時間は5分22秒となっているが、これはテロが発生した日付である5月22日のことを暗に示していると思われる。
また、曲の最後の約40秒程度の無音箇所は、テロの犠牲者を追悼するためにい設けられたものであるそうだ。こういうところに彼女のテロに対する想いが表れていると思う。
というわけで「Sweetener」、全体的に見ても大変素晴らしい作品であり、今作がポップスターとしてのアリアナ・グランデをネクストレベルに押し上げたことは疑う余地もないだろう。
恐らくファレルの参加が効いているのだと思う。彼が担当したヒップホップ要素の強い新機軸の楽曲と、これまでタッグを組んできた巨匠マックス・マーティンのチームが担当した高クオリティのポップソングがいい具合に作品中で混ざり合い、それが今作の完成度の高さに一役買っているのだと僕は思うのだ。
最後にアルバムジャケットについて。
天地が逆転してしまうほどの衝撃的な体験、その傷は決して完全に癒えるものではないと思うが、その中でもまっすぐ前を見つめてこれからを生きていくというアリアナの強い決意が表れた素晴らしいジャケットであると思う。
[参考文献]
https://genius.com/albums/Ariana-grande/Sweetener