SMALL TALK

small talk : 世間話、雑談

小沢健二「春の空気に虹をかけ」のライブレポ・そして雑感

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5月の2日と3日に、北の丸アンフィシアター(日本武道館跡地)にて小沢健二のライブツアー「春の空気に虹をかけ」を二日連続で見てきました。あまりにも素晴らしかったので、ちょっとしたライブレポートを書きます。

 

 

 

セットリスト&曲毎の感想

2日とも、少しの例外を除いてセットリストは同じでした。別日にあった東京国際フォーラム大阪城ホールでの公演でも同じだったみたいです。

1. アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)

唐突に客電が落ち、そのまま小沢の超絶ラップが始まり、カウントダウンを経て本編スタート。

1日目、この曲を聴いた僕は知らないうちに大泣きしていた。割と嗚咽するくらいに(笑)。小沢健二というアーティストを好きになってからまだ1年くらいしか経っていないのだけど、その割には僕の中での彼はかなり大きな存在になっていて、そんな大好きな人をこの目で見ることができたという喜びが、他のミュージシャンのライブならありえないこういった感情の発露を引き起こしたのかなと今なら冷静に分析できる。もう1人の大きな存在、デヴィッド・ボウイを生で見ることは叶わなかったから余計に…。

2. シナモン(都市と家庭)

リハーサルの音漏れを聴いていた時にこれを演っていて、その時点でもう失禁レベルにカッコよかったのが、本番はもっと良かった。

特に満島ひかりの低音ボイスには痺れた。彼女はこれ以外にも様々な曲で重要な役割をこなしていて、36人ファンク交響楽メンバーの中でも核となっていたと思う。

3. ラブリー

 ファンキーなメンバー紹介を経て、照明もピンクになり小沢健二のキャリア屈指のヒット曲がスタート。とんでもないくらいの溢れる多幸感!!!これはライブ全編に言えることだけど、この「ラブリー」と次の曲では特に、ドラムスの白根佳尚氏の刻むリズムがタイトで心地よい。スタジオ版でも、青木達之の刻むタイトなリズムがこの曲の肝だもんね。

途中からストリングスが加わり36人がステージ上に勢ぞろい。ストリングスの迫力!

4. 僕らが旅に出る理由

疾走感!!!スタジオ版と寸分違わない、美しいストリングスの響きを堪能しながらも歌い狂うという贅沢すぎる経験。

小沢の隣で満島ひかりがMVを再現するかのような寸劇を披露。

youtu.be

これを見て、エモーショナルになってまたもや泣きそうになる。小沢もノリノリで足をふみ鳴らしながら歌ってたし、この流れは今回のいくつかあるピークのひとつだったと思う。凄い体験だった…。

5. いちょう並木のセレナーデ

曲前のMCで、

日本武道館はすでに全焼していて、今は北の丸アンフィシアターという野外ホールが跡地に建っている」

「燃えた理由は異常な愛情を持つ物販の係員が火をつけたから(5/3の公演では、徳川家の呪いで燃えたという説も紹介)」

などという謎設定を持ち出す小沢。会場内では大笑いする人と困惑する人に見事に分かれる。笑

 いやあ、やっぱり野外の会場で綺麗な星空見ながら聴くのは気持ちがいいなあ(棒読み)

6. 神秘的

名前の通り、なにか神秘的な、荘厳な雰囲気に。ここでもストリングスが大活躍。36人という大人数の編成に関わらず、余計なメンバーは一切いないと感じさせられる。

7. いちごが染まる

実は今回の公演で初めて聴いた。「我ら、時」に収録されているみたいで。あれはまだ持っていないので買って聴いてみよう…。

曲自体の感想としては、三拍子のリズムが印象的な落ち着いた曲。ただそれ以上に心に残っているのは満島ひかりのパフォーマンス。小沢が歌っている周りを赤と緑の蛍光の紐でぐるぐる巻きにしていくのだ。(いや、体に直接巻いているわけではない) 

この前衛的なパフォーマンスはどういう意味を持っているのだろうか。ネットで歌詞を読んだ限りだと、いちごが育っていく様子と収穫されていく様子を表現したのではないかと僕は考える。(ちなみに、家庭菜園でのいちごの収穫シーズンは5月上旬から始まる。今回のツアー時期とも重なっているうえ、「春の空気に虹をかけ」というツアー名にも合致する中々良い選曲と言えるのではないか。すごい上から目線だけど。)

8. あらし

毎回のツアーで必ず一曲はEclecticからセットリスト入りするが、今回はこの曲。ウネリまくるグルーブと漆黒のファンクネス。とてもカッコいい!Eclectic、早く再評価されてほしいなあ。

満島ひかりがクリスタルのような物体を使って、会場に虹をかける。

9. フクロウの声が聞こえる

小沢曰く、「36人ファンク交響楽の中心となる曲」だそう。スタジオ版からは少しアレンジしてあって、シンフォニック成分が減退した感じ。(魔法的ツアーの時のアレンジらしい)

満島ひかりがパッドを叩いて操る、激しく点滅する照明も加わり、狂気と美しさの間で進行する演奏によって、我々観客もカタルシスへと導かれる。間違いなくハイライトのひとつ。

10. 王子様組曲 (戦場のボーイズ・ライフ〜愛し愛されて生きるのさ〜東京恋愛専科〜愛し愛されて生きるのさ〜戦場のボーイズ・ライフ)

勝手に変なタイトルをつけてしまったけれど。

まさに小沢が世間から王子様のような扱いを受けていた時期の曲、しかもそれっぽい曲ばかり。3曲それぞれがミルフィーユのように重なり合った構造となっていて、メドレーというよりは組曲と言った方が近いかも。

東京恋愛専科での振り付けがとても可愛かった。絵文字にしてみると

☔️ ☔️ 💁 ☂️

👁👁👂👂👃👃👄👄

✨ 🌌

って感じ。伝わらない…。

11. 強い気持ち・強い愛

この流れでこれはずるいとしか言いようがない、小沢屈指のアッパーチューン。会場のボルテージも最高潮に達していた。

サビの大合唱、観客の声の大きさが半端なかった!あんなに大きな合唱は、ノエル・ギャラガーのライブ以来だ。まさに血湧き肉躍るといった感じ。

12. ある光

満島ひかりもギターを携えて、めちゃくちゃロックなアレンジでの演奏。個人的にはすごい思い入れのある曲で、原曲のアレンジが大好きだったのでそのままやって欲しかったが、この大名曲を生で聴けただけでも満足している。

「強烈な音楽がかかり〜」「僕の心は震え〜」と小沢の語りパートに入るたびに割れんばかりの大歓声が起こる。歓声をあげてしまう気持ち、すごい分かる。

13. 流動体について

あの印象的で、やけに難しい手拍子から本編最後の曲がスタート。フジロックの時はフェイントだったので少し身構えたが安心した。笑

多方面でもよく言われていることだが、この「流動体について」は活動再開後はじめてのシングルであると同時に、活動休止前の実質最後の曲「ある光」のアンサーソング的な存在である。だから、この2曲を並べて演奏するというのは本当に感慨深いものがあるいい流れだと思う。本当に隅々まで考えられていて、よく練られたセットリストである。

演奏も、まるでこの曲のために36人ファンク交響楽は編成されたのかと思わせるくらい素晴らしいもので、完成度も高かった。

この曲で本編は終了。小沢の口から「アンコール呼んでください」という言葉が出る。笑

 

14. 流星ビバップ

「春、空、虹春空虹」というカウントで始まる。

物販のレコジャケの説明文に「アンコール一曲目を演奏する時に着用します。薫る風を切るのです。」という一文があった時点である程度この選曲は予想できたが、本編の開始曲がこの曲と兄弟のような存在である「アルペジオ」というあたりからも、今回のセットリストがよく練られていることがわかる。

小沢とともにレコジャケを羽織った満島ひかりのダンスがとても可愛かった。

15. 春にして君を想う

今は廃盤となった短冊シングルでしか聴けない曲であることもあって、完全にノーマークだったので会場で初めて聴くこととなった。

活動休止前最後のシングルは葬送曲のような雰囲気を持っていて、小沢と満島ひかりが2人で踊るタンゴのようなステップもどこか切なさのようなものを感じさせた。

16. ドアをノックするのは誰だ?

www.youtube.com

この動画で見たのとほとんど変わらない光景が目の前で繰り広げられていることに感動した。ドアノックダンス、そして多幸感で包まれた日本武道館

「多分このまま素敵な日々がずっと続くんだろ」 歌詞の内容とは裏腹に、残念だけど、終わりは近づきつつある。

17. アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)

ショウのフィナーレは2回目のアルペジオ。曲に合わせてメンバー36人を全員紹介。

曲の終わりに近づくにつれて照明も明るくなり、ついに日常に帰るとき。

5、4、3、2、1

 

生活に、帰ろう。

 

 

18. フクロウの声が聞こえる(5/3のみ)

ところが千秋楽では状況が違った。暗転しても退場しないメンバーたち。そしておもむろにギターのイントロが始まる。

2回目のフクロウだ!「フクロウの声が聞こえる」日常もあるんです。本当にありがとう。ちなみに、演奏後に小沢が話していた内容に僕はいたく感動した。詳しくは後述。

今度こそ本当に生活に帰るとき。

5、4、3、2、1

 

生活に、帰ろう。

 

ライブを通じて色々と感じたこと

今回のライブ、見た後に色々と感じることが普段見るようなライブよりも多くて。(だからこの記事を書いているわけなんだけれども)

まずひとつめに感じたことは、会場内全体が幸せに包まれていて、小沢も言っていたことだがユートピアのようだなということ。

普段、僕は小沢のファンのことがあまり好きになれずにいた。小沢への思い入れが強すぎて、半ば宗教のようになっているところが僕の中でちょっとした拒否反応みたいなものを生んでいた。(ただ、別の観点から見るとそれくらい小沢健二は愛されているアーティストであるということだ。長い活動休止期間もあったししょうがない点もあると思う。)

だが、ライブ中に周りの観客の様子を見ていると、みんながみんな、僕の嫌いな人種である小沢ファンたちがみんな本当に心から幸せそうな様子で、全員そんな様子なもんだから会場内はまさにユートピアのような空間になっていた。

そんな空間に囲まれていると、これまで感じていた小沢ファンへの嫌悪感が「ま、いっかあ」という感じでスッと抜けていった。

陽性のパワーというのは凄まじいものである。少し前にTwitterでバズったワードじゃないけど、「幸せならオッケーです」なのである。見事に僕も「オザワ教」の一員となってしまった。将来こんな感じでカルト宗教に引っかかってしまわないか心配になるけれど。

次に言いたいのはツアーコンセプトの秀逸さ

今回の「春の空気に虹をかけ」でモチーフとなっているデザインがあって、それがこれ。

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小沢曰く、

それと、『アルペジオ』のジャケットにはスリットというか、裂け目が入っています。忍者が隠し戸からスルッと抜けるような、どこかへ繋がっている裂け目。あれを思いついた時にすごくスッとしたのです。今回のデザインには、あの形をくり返し使っています。

 

というわけで、上の写真のようにこのモチーフは武道館の正面にも使われている。(小沢ファン以外が見たら、多分誰のライブなのかわからないだろう。笑) 

僕はこのモチーフを、日常を抜けて狭い門(チケット争奪戦のことを表しているのだろうか?)から音楽が溢れるユートピアの中に入っていく、という意味だと解釈している。(実際スリットからチラリと覗く景色は音符や音楽記号らしきものがちりばめられている。) 確信犯だとしたらスゴいとしか言えないなあ、と思う。

あとというモチーフもライブの中でよく使われていた。

虹といえば、LGBTのイメージカラーともいうべき色。また、小沢はMCで「男子!と言ったら、男子の気分の人。女子!と言ったら、女子の気分の人は歌ってください。」という趣旨のことを言っていた。ジェンダー問題がたびたび取り上げられる昨今の情勢を考慮した、さすがと言わざるを得ない演出だと思った。

最後は、オザケン世代」という言葉に対する発言について。 

千秋楽公演で、2回めの「フクロウ」が終わった後に小沢がMCで

「さっき満島さんがオザケン世代と言ってたけど、僕は世代なんてものこれっぽっちも信じてませんから!世代っていうのは広告が捏造するもので、『フクロウ』がわかる人はみんな僕のオーディエンスだと思っています!」

という趣旨のことを言っていた。(正確ではないかもしれません、すみません。でも大体趣旨はあっていると思います。公式サイトに補足が掲載されているので、ぜひ参照してください。)

僕はまだハタチもそこそこの若造で、世間一般で言われるような「オザケン世代」では絶対にない。90年代中盤の、小沢が王子様扱いされていた頃のことも話に聞くだけである。

小沢のファンに関しては知らないが、例えば70年代に活躍した洋楽ロックのミュージシャンのファンに顕著なのだが、どうしてもファンの中では「全盛期を知っている古参ファンの方が新参者より格上」という風潮が生まれがちで、僕もそれをしょうがないことのように受け入れてきた。

だが、小沢のこの発言はそういったくだらないヒエラルキー的なものからファンたちを解放するものだった。僕はこれを聞いてすごく救われたし感動した。

彼の書く歌詞やエッセイはいつも僕の心を震わせてくれる。彼が「言葉の人」であることを心の底から実感した、そんな発言だった。

あの日のライブ会場には、多分「流動体について」から入ったと思しき、僕と同年代のファンが大勢いたように思えた。前述の小沢の発言に対して、この日1番だったかもしれないくらいの大きな歓声が上がったのは、こういった若いファンが多く来ていたこと、そして小沢健二という人が「世代」なんて概念を超越した、幅広い人々に愛されるアーティストであることを示す何よりの証拠であろう。

 

 さいごに

この「春の空気に虹をかけ」、個人的にはもう本当に大満足でした。とりあえず今のところの生涯のベストライブです。まあ、今は絶賛小沢ロスに苦しんでいるのだけれど…。マイペースでいいので、今後も新曲出したりと活動は続けていってほしいです。あ、もちろんライブツアーも。今度のライブでも、生涯ベストを更新してくれることを心の底から願って、この長ーい長ーい記事の結びとします。

 

[7/23 追記]

今回のライブレポの続編的なものを書いてみました!よければどうぞ。

green-david0705.hatenablog.com